医者の人生

小学生の頃、Dr.コトー診療所というドラマが大好きだった。

10年以上経って医者になって見た映画版コトーは、苦しかった。

1人で何年も島を支え続け、一体何歳設定なのかわからないけれど白髪だらけになってやっと子宝に恵まれ、なのに自分や家族よりも島の人を優先するし、島の人もコトーにそれを求める。

令和の研修医の価値観が今の私と同じで、島の価値観は平成と変わっていない感じが。

そういうメッセージを受け取って欲しいと作り手が思っていたかは定かではないが、

医療と医療者と市民の関係の、時代による変化という社会問題を私個人としては感じた。

 

診療科にもよるのかもしれないが、

医者はある部分公人であるし、公的財産として存在することを求められる。

それ自体は間違いではなくて必要だと私は思うが、程度の問題はある。

医者としてのスキルを持っていることを資源と考えると、

医者になったからにはいついかなる時も患者のために自分の人生は投げ打って、医者として生きる。

ということになるが、(コトー先生的な)

それができる若者は今の時代そんなにいない。

ゆとり、z世代だからとかそういう問題だけではなくて、

昭和の外科医がぶいぶい言わせていた時代と比べて医者の付加価値も下がっているし、医療界全体のお先真っ暗感もあるので、

余程洗脳されているか、使命感に燃えているか、

ほんとに自分のことがどうでもいいか、

でないと、

自分の人生これでいいのか?

とどこかで思うことになる。かもしれない。

 

私個人の思い出を振り返ると、

初期研修の頃の写真フォルダには遠出したものは数日分しかない。研修医仲間の日常スナップはちょこちょこあるが。

思い返しても、ほとんど病院にいて、座敷童と呼ばれていたくらいなので必然である。

とは言え、同期と病院近くの定食屋に行ったり、医局で喋ったり、寮でみんなで鍋を突いたりという思い出はあり、楽しかったは楽しかった。

後期研修はよりひどい。4年間の間の写真がほとんどない。友人の結婚式に行ったのと、年1で旧友に会うかどうか。

要領のいい人はこの間に結婚して子供が生まれたりしているので私が要領が悪いだけと言われればそうかもしれないが、

誇張なくほぼ全てを仕事に注いでいた。(仕事をしているというか、生き延びていたという感覚)

 

貯金残高は増えた。

だって使い所がないし、使う時間もないから。

休みの日(と言ったって、起きたら病院には行くのだが)は寝溜めして、可能であれば溜まった仕事を消化して、気づけばまた1週間が始まる。

命を削って働いているという実感が毎日あった。

あの頃私はまだ30前だったのか。

世の中の同世代の女の子たちが婚活だなんだと言っている頃、私は病院でゾンビのように、誰が患者かわからないような状態で働いていた。

 

後期研修が終わって、

本当はこれからより研鑽を積むべき時期で今まで以上にハードワークした方が医者としてはいいのだが、無理ができなくなってしまった。

ずっと前から行ってみたかった登山や旅行に夏休みをとって行ってみたら、

病院の外にはこんな世界があったのか、と

冗談じゃなく思った。

自分も人間で、

医師として市民の奴隷として働くばかりではなくて、人間としての人生を楽しむ権利があるのではないかと、はじめて思ってしまった。

洗脳から目が覚めたと言ってもいいかもしれない。

 

私が生きるのに不器用なだけだとは思う。

私は、凡人の自分が、いい医者になるには人生を捨てなければと思い込んでいた。

医者とはそういうものだ、医者になったからにはそうするべきだと、思っていた。

でもそれで私という人間は死にかけた。(物理的にも、精神的にも)

 

そのことを経て、今は考えを改めた。

バランスよく、仕事も頑張り、余暇も楽しむのが一番良い。

全身全霊をかけて人生の全てを市民の皆様に奉仕できないのは申し訳ないけれど、

自分のスキルとか、医者という資源、ある部分公人である私が社会に細々とでも、長く貢献できる方が、意味があることなような気がするし、

私自身のことも大切にしないと、私が死ぬ時に後悔しそうだから。

仕事100%の頃私は早く死にたくてたまらなかった。不治の病にかからないかなとか、明日目が覚めなければいいのにと、大真面目に思っていた。

でも今は、行きたいところとか、趣味でやりたいことがたくさんあって、死にたいとは思わない。仕事がすごく嫌だとしても、死ぬくらいなら仕事辞めて行きたいところ全部行ってからにしよ、と思えるようになった。

 

至極当たり前なことしか言っていない気もするが、意外と医者自身が神格化された医者のイメージに羽交締めにされているのはよくある話ではなかろうか。

医者も結局1人の人間。

酷使されれば壊れます。