医局という組織

全国の大学の医学部には各科の医局という組織が存在しており、

大学教授を筆頭として臨床、研究、各科の医師の教育、学部学生の教育などを行なっている。

大学医局の大きな役割の一つは医局員を関連病院に派遣する人事権を握っていることである。

昔は大学医局が殆どの勤務医の人事を斡旋していたので医局の権力は絶大であったが、

今は市中病院に若いうちから就職したり、市中病院が基幹施設の後期研修もあったりするので

大学医局に所属していない若い医師が増えており、

以前と比較して大学医局の影響力は小さくなったと言われている。

とはいえ、こと田舎においては多くの病院では医者が足りないし、

縁もゆかりもない田舎の病院に直接応募してくる医者なんて殆どいないので

まだまだ医局派遣がないと病院の人事が立ち行かないところも多い。

 

医局には、病院にとっても医者個人にとって利点と欠点がそれぞれある。

病院からすれば医局は安定して人材を派遣してくれる元締めのような存在であるが、

一方で、医局引き上げ(医師派遣を止めること)をちらつかせて待遇の改善を求めたり、

無理な条件を呈示したりすることもなくはないという噂も聞く。

医者にとって医局の利点は、勤務先を斡旋してくれるので食いっぱぐれはないということと、

専門医取得までの必要な症例を経験しやすいことであろう。

一方で、決定的な欠点として、自分の希望で勤務地を選ぶこともできない。

これは多くの医者にとって大きな問題で、30代から下手をすれば40近くまで

半年から数年に一度引っ越しを余儀なくされる。

(人事の理不尽具合は医局により千差万別なのだとは思う)

私は独り身なので引っ越し自体は色々なところに住んでみるのもいいかもと思うくらいだが、

病院が変わるとまた人間関係を一から作り直さないといけないのは大変だし、

人によっては結婚して子供が産まれて、人生のうちで大きな出来事が多く起こる頃に

ころころ自分の希望とは関係なく転勤させられるというのは結構きつそうだ、と

同期や先輩後輩を見ていると思う。

しかもこの人事異動は基本的には拒否権はなく、どうにも嫌なら医局を辞めるしかない。

過去には人事に納得がいかないことを申し立てたところ

「そこが嫌ならうちの県から出ていけ、そして戻ってくるな。県内の他の病院に就職し様ものなら許さん。」と半ば脅された先輩もいたらしい

(専門医取得済みで、次の職場も自分で見つけられるなら辞めても問題ないとは思うが、

人によっては結婚していたりすると県外に出ることは容易でないこともあるだろう)

あるいは、優遇されるような人事の恩恵に預かりたいのであれば、

研究や臨床の実績を残し、医局にとって必要な人材であることを必死にアピールしなければならない。

 

組織に属するという人はみんな同じようなものなのかもしれないけれど、

医局という組織もなかなかブラックである。