実際の医師の働き方

医師の労働時間の制限がこの4月から変わる。

医師の働き方改革と言われているものである。

厚労省曰く、

医師は他職種と比較して抜きんでた長時間労働の実態にあり、日本の医療が医師の自己犠牲的な長時間労働により 支えられている危機的な状況にあります。長時間労働の是正による医師の健康確保、仕事と生活の調和を踏まえた多様 で柔軟な働き方の実現を図ることが、医療の質と安全性の確保、これからの医療を支える人材の確保、地域の医療提供 体制を守ることにつながることから、時間外・休日労働時間の上限規制等の働き方改革が必要となっています。 

 
とのこと。
実際医師はどのくらい働いているのか、
医療関係者以外が知るべきなのかもわからないが、
私の思い出として残しておく。
 
医師と一口に言っても、
勤務医なのか、開業医なのか、病院以外の勤務なのかでも全く勤務時間は違う
総合病院の勤務医に限って言っても診療科によって特性が大分異なるので
労働時間も異なるはずであるが、
あくまで私の実体験をお伝えする。
 
①初期研修 
とてもハードなことで有名な総合病院の初期研修医だった私は、
仕事の要領が大変悪く、さっさと終わらせて帰るなんてことができなかった。
穏やかな科の研修では定時で帰れることもあったが、
平均して週の半分は病院の仮眠室で寝ていたし、
一番ひどいときは
朝7時前には病棟で全体回診前に1人で担当患者さんの様子を見に行きカルテを書き始め
日付が変わる前に仕事が終わればいい方で、夜中2時くらいまで病棟で業務していた。
次の日にカルテを書きながら電子カルテの前で気がついたら寝てしまったり、
悪循環だった。
初期研修医には時間外手当という概念がなかったので、当直代を除いて一度ももらえなかったと思う。
夏休みは3日確かもらえたけれど、
年末年始も当直やら科の待機でカレンダー通りに家に帰るなんてできなかったし、
当然のように誰も有給なんてとっていなかった。
むしろ、二年目になって一年生が有給を申請しているのを見て初めて、
自分たちも有給を申請することができるのだ、と知った。
今思えば明かに過労死ラインを超えて働いていたが、当時は
医師とはこんなものなのだと本当に信じて疑わなかった。
医師であるからには自己犠牲の精神で限界まで奉仕しなければいけないと本当に思っていた。
寝不足や人間関係のストレスで何回か体調を崩して、自分には向いていない、と思い始めた。
 
②後期研修 大学病院 
大学病院の長時間手術と、カンファレンスの準備のためにとても長い時間を要し
またしても週の半分くらいは家に帰らず医局のソファで寝ていた。
明かに業務過多で、時間外労働が多く産業医面談に呼ばれたが、
産業医面談では「ねえ、大変だよねえ。なんかあったら診断書は書けるので言ってね」と言われただけだった。
その後程なくして仕事に行くことができなくなったが、
医局は労働環境の是正には当然のように取り組んでくれなかった。
1ヶ月休んだが、その後何もなかったかのように過重労働を再開した。
自分の身を守るために、早くここを抜け出さなければと思いはじめた。
 
③後期研修 市中病院
医局派遣で市中病院に異動になった。
カンファ準備や長時間手術に伴う長時間労働は無くなった。
外来のない日の日中は救急車が来るかどうかで忙しさが変わり、
救急車が来るかどうかは運なので暇な日と忙しい日の差は大学病院と比べて激しい。
穏やかな時はお茶を飲んで休憩することもできるが、
朝から何も食べられず気がついたら夜になっていることもある。
2人で当番を回しているので、当直明けの日に夜まで働かざるを得ないこともあるし、
何日も連続で真夜中に呼び出されることもある。
真夜中に呼び出されても、翌日は普通に仕事をする。
当番の日は家にいても病院からいつ電話がかかってくるか分からないので
なんとなく落ち着かず、携帯が鳴ったのではないかとビクッとすることがよくある
携帯にすぐに出て病院に行かなければいけないので、
温泉、映画館、コンサートといった携帯電話の電源を落とす必要がある場所には行きにくく、
たとえ当番でなくても、緊急手術となったら呼び出されるのでこのような場所には
あまり行かなくなったし、
飲酒も車の運転ができず病院に行けなくなるので付き合い以外ではしない。
 
目の前に困っている方がいれば助けになりたい、
自分のスキルがその役に立てば嬉しい
私を含めて多くの医師はそう思っていると思う。
ただし、医者も1人の人間なので働き過ぎれば倒れるし、パフォーマンスも落ちる。
自分の健康と安全を保てずに、患者さんのことを十分にケアすることはできないと思う
世の中の働き方改革と同様に、医者の労働環境も適正化されることを切に願う。
 
市民の皆様が病院でなんだか疲れ切ってフラフラの医者を見かけたら、
こんな働き方あるいは、もっとひどい働き方をしているんだろうな、、と
思っていただければ幸いである。