私は一応女性医師である。
あまり性別で区別して話をするのは好きではないが、
女性が医者になる時に起こる独特の事象は存在すると思っている。
受験生の時には、性別で何かが変わるだなんて本当に微塵も思っていなかった。
私は世間知らずの幸せ者だった。
知らない間に試験の点数を引かれたりはしていたのかもしれないが、
(女子学生・多郎生の入試点数減点騒ぎはちょうど私が入学した頃の出来事である)
気がつくこともないので考えもしなかった。
高校生の頃から若干周りから浮いてはいたが、
勉強のできる男子生徒も同様に浮き気味ではあったし、
私の性格自体も変わっているので、性別のせいだとは特段思っていなかった。
そもそも子供のことから女性性が私には足らない。
プリンセスが好きだったり、可愛らしい格好をしたいという願望もないし、
化粧をするなどして異性から見て魅力的になろうとすることもない。
アイドルやらモデルやらにも興味がない。
周りの同級生がそういう話ばかりするので、全然ついていけないし楽しくないしで
ずっと友達は少なかった。同級生との会話の中に私の居場所は基本的になかった。
(別に話の合わない人と友達になりたいとも思っていなかった)
大学の時にも、男女分け隔てなく話はできたが、それ以上に深い関係を築くことはなかった。
なので、私は男性が女性をどういう目で見ているか、ということに対する免疫が著しく足らない状態で社会人となってしまったし、
女性が社会でどういう立ち位置であるか、もよく考えずにいた。
社会に出て、男女で分けられる場面、女性というグループに入れられて勝手に解釈されることが多いことにまず驚いた。
女性医師は増えてきたとはいえ、まだまだ男性医師の方が多い。
医者の集まりに行くと男性7−8割、女性2ー3割くらいのことが普通なように思う。
研修会や医局の中で、マイノリティの女性は女性だからというただそれだけの理由で仲良くする、一緒に行動することを強要される傾向にある。
女医だって個人によって色々な人がいるので、私のような変人もいるし、女性性の高い人もいる。
染色体がXXだという以外に共通点がない人と、業務上必要な以上に一緒にいるのは私のような変人にとっては難しい。それならいっそ1人の方が何倍も楽である。
続いて、中年男性が仕事中ですらいかに性欲を切り離すことができないのか。ということに辟易した。
同年代の男性医師は、私のような芋っぽい女医のことは女性としては扱わないので、フラットに接することができてこちらとしても気が楽であるが、
中年男性方からすると、染色体がXXで若ければなんでもいいらしく、
彼らの中で理想化された女性としての立ち居振る舞いを色々と強要されることが多々ある。
大体において、若年女性は、穏やかににこにこしていて、男性の話に「すごいですね」と感心して、男性よりも優秀でないことが期待されている。
お茶やコーヒーを淹れろとは言われないが、飲み会のお酌は女の仕事だといまだに思われているし、「女の子がいると場が華やいでいいね」などとのたまう。
女性が近くにいるとそれだけでなんだか浮き足立っている中年男性もいる。
女性の中には、チヤホヤされて嬉しい人もいるとは思うので、そういう人にとってはこういう中年男性はいい人なのかもしれないが、
女性であることに価値を見出していない私からすれば、気色悪いの一言である。
女だからって甘やかされなくて結構だ、と思ってしまう。
働き始めて数年は、中年男性の機嫌を損ねないように期待されていることをしようと努めていたが、我慢の限界に達して、必要以上に優しくすることはやめた。
さらに、働き始めると女はあまり期待されていないということに気がついた。
特に、外科医の世界では、大っぴらには言わないものの
「女のくせに外科医になるなんて生意気なやつだ」と思っているのが隠しきれていない大先輩がちらほらいる。
確かに体力は同年代の男性と比べたらどうしても劣るので、72時間寝ずに働くなどということは残念ながらできない。
しかし、それを除けば頭脳や手術技術の点では特に男性に引けをとっているとは思わない。
当直だって、救急当番だってやってはいる。できることだって昔よりは増えた。
ただ無尽蔵に働けるかどうか、という点で男性に勝つことはできなくて結果的に
フラットな視点で女性が出世頭になることは難しい世界だ、と感じる。
今の私たちの狭い狭い業界で出世していっている女性がいないかといえば、もちろんいるけれど、
男女共同参画事業の一環だったり、子育て女医の宣伝のためだったり、
女性が活躍していることを宣伝するための要素が多少なりともあることも少なくない。
(勿論本人たちが一生懸命努力して働いて勝ち取った結果であることは言うまでもないが。)
外科医界隈の女性はどちらかというと負けん気が強くて仕事と結婚系の方が多いとは思うが、
外科医界隈でない女医さんたちはもっと女性としての人生についてよく考えている、
という事に遅ればせながらあるとき気がついた。
夫も医者でメジャー科なので自分はマイナー科に、持ち患者のいない麻酔科や放射線科に、と
自分の興味のあることを諦めている女医さんがたくさんいる。
当時の私はその感覚が全くわからなかったし、今もわからないけれど、
医者の世界でも、夫に合わせて妻がキャリアを制限するのは珍しいことではない。
逆のパターンは聞いたことがない。
家庭の事情で諦めざるを得ない人もいるし、
そもそもQOL重視で診療科を選ぶ人もいるのでなんともいえないが、
女医自身にも、医者になったからといって女性としての人生は他の職業の人と一緒、
と考えている人の方が多いのだなあとやっと気がついた。
(私は医者になると決めた時点で、結婚して子供を持つという選択肢はどこかにおいてきてしまった、というか、結婚したり子供を持つことはないだろうと思ったので1人で身をたてる必要があり医者になった側面もあるといった方が正しい)
さらに、私は中年男性の女性チヤホヤは気分悪いと思ってしまうたちだが、
それを利用してのしあがろうとするハイエナのような女医さんもいて驚いた。
本当に、染色体以外には共通点のない人なんだな。と
女性であるだけではなくて、童顔なせいもあるのかもしれないが、
医者として大切な「頼り甲斐」という項目にも女性であることはやや影響する。
今ではだいぶ減ったが、特に高齢男性の患者さんには「若い女が担当医で大丈夫なのか」と言われたり「私の主治医がいつになってもこない」(主治医が男性だと勝手に思い込んでいるので回診していても看護師だと思われている)と言われたりしたことが何回かある。
看護師だと思われて呼び止められて、「看護師さんに確認してください」とお願いすると、
医者だとわかって急に態度を変える方もまあまあいる。
看護師さんに間違われなくても、実年齢よりも若く見られて研修医に間違われることも結構ある。
せめて頼れる医者感を出そうと、白衣を着て自信ありげな話し方をするようには心がけている。
他科の中年男性医師と話す時は最悪で、偉そうな図々しい態度で出られるとこちらは言い返せないし、言うことを聞かざるを得なくなる。
若い女だからと舐められているなと感じることは多い。
どこの世界でも同じだとは思う。
むしろ、資格仕事であるだけ医者界隈ではましなはずなのだが、
それでも、働き始めてから色々な場面で自分は女性なんだと自覚させられる場面がたくさんあった。
もし今と同じ人生をやり直すなら、男になりたい。